施設によって、口腔ケアへの熱量はかなり違う。
食後ごとにしっかり口を見ている施設もある。
歯科衛生士さんが定期的に入って、義歯管理まで丁寧な所もある。
でも正直、「とりあえずスポンジで触りました」くらいで終わっている空気の施設も、まあある。
そんな中で、私は夜勤の時だけ、わりと本気で歯を磨く。
ただ問題は、私の夜勤回数が月4〜5回しかないことだ。
つまり利用者さんからすると、
「たまに来る、急にちゃんと磨く人」
なのである。
結果、毎回血まみれになる。
歯ブラシ一発目で、歯ぐきから赤いのがブワッと出ると、毎回ちょっと泣きたくなる。
いや、違うんです。
私が乱暴なわけじゃないんです。
たぶん、久々にちゃんとブラシが当たっただけなんです。
施設の口腔ケアって、理想通りにはいかない。
ちゃんと「あーん」してくれる、お利口さんな利用者さんもいる。
でも半分くらいは、口をぎゅっと閉じる。
ブラシを噛む。
顔をそむける。
舌で防御する。
本当は奥まで磨きたい。
内側もやりたい。
でも現実は、外側だけで終わる日も多い。
バイトブロック欲しいなあ、と何度思ったか分からない。
しかも、私が熱心に磨いていても、周囲はそこまで口腔ケアに興味がない時もある。
もちろん忙しいのは分かる。
食事介助、排泄介助、コール対応、記録。
口腔ケアって、命に直結してるのに、優先順位の最後尾に追いやられやすい。
だから、一人だけ頑張っても限界がある。
それでも、たまに成果が見える瞬間がある。
真っ赤で、ぶよぶよしていた歯ぐき。
歯との境目まで腫れていた歯肉。
それが、何日か継続して磨けていた時、薄ピンクになっていた。
あれを見た時、私は心の中で「きゃー!」ってなる。
一般の人からしたら、ただの歯磨きかもしれない。
でも現場で見ていると、
「この歯ぐき、先週は終わってたんやぞ……!」
みたいな感動がある。
逆に、本物の歯科往診を見ると、自分の甘さも分かる。
先生や衛生士さんは、フロスだの一本磨きだの、舌ブラシだの、めちゃくちゃ本格的だ。
「うわ、プロや……」と思う。
ただ、たまに本気の舌ブラシで利用者さんがオエッとなっているのを見ると、
「……今日は優しめにしよう」
と、私の中の口腔ケア魂が少し静かになる。
理想と現実の間で揺れる。
そんなある日、歯科往診の先生に、
「直前に磨いたの私なんですけど、直しありますかね!?」
と聞いてみたことがある。
すると先生は、
「ブラシだけで磨いてるので、十分だと思いますよ」
と、さらっと言った。
その日だけは、ちょっと嬉しかった。
本当はもっとやりたい。
フロスも使いたい。
ワンタフトも欲しい。
一本ずつ丁寧に磨きたい。
でも現実には、時間も、人手も、利用者さんの状態もある。
だから結局、施設の口腔ケアって、“一回の完璧なケア”より、継続ケアなんだと思う。
そして継続ケアには、同士が必要だ。
今日も私は、たまにしか来ない夜勤で、また歯ブラシを握っている。