〜診療所併設しか知らなかった私、企業型ステーションで度肝を抜かれる〜
病院や診療所系列で働いていた頃、私はずっと、
「丁寧に患者さんを見ること」が良い看護だと思っていた。
実際、診療所併設の訪問看護ステーションで、次男の産休に入るまで1年半ほどパート勤務していた時も、そんな空気だった。
だから今回も、“訪問看護”と聞いて、なんとなくその延長線上をイメージしていた。
でも、企業型訪問看護ステーションの説明会に行って気づいた。
あれ…?
もしかしてここでは、“良い看護師”の定義そのものが違う…?
「ママに優しい職場」のはずなのに
説明会には、私の他に30代くらいのママナースが一人来ていた。
その流れで、
「お母さんだけが子どもの体調不良で休まないといけない社会はおかしい。お父さんや家族にも協力してもらうべき」
という話になった。
理念としては本当にその通りだと思う。
でもその瞬間、私の頭に浮かんだのは、
「それってつまり、“誰を使ってでも出勤できるよう調整してね”ってこと…?」
という感覚だった。
訪問看護って、誰かが休むと利用者さんに直結する仕事。
病棟みたいに「今日は人数少ないけど何とか回す」が難しい。
だからこそ、“休みにくさ”って実際あると思う。
もちろん、実際の職場環境は入ってみないと分からない。
でも説明を聞きながら、なんとなく「責任の重さ」が透けて見えた気がした。
「丁寧に見る」が当たり前だった
私が以前働いていた診療所併設の訪問看護ステーションでは、訪問時間30分〜90分の枠の中で、
- 薬のセット
- バイタル測定
- 容態観察
- 簡単な在宅リハビリ
- 家族対応
をやっていた。
正直、時間に余裕があるわけではない。
でも当時、先輩に言われた言葉が今でも残っている。
「なんかおかしいな…と思いながら帰ったあと、次に入ったヘルパーさんから“倒れてました”“熱出てました”って連絡来たら、“あー、やっぱり受診させときゃ良かった…”ってなるでしょ?」
「だから、しっかり見てこないとダメなんだよ」
その感覚が、私の中では“訪問看護”だった。
限られた時間の中でも、
- いつもと違わないか
- この人、本当に大丈夫か
- 受診必要じゃないか
- 生活崩れてないか
を見て帰る。
もちろん効率も大事。
でも、“件数を回す”より先に、“見落とさない”があった。
だから今回、企業型ステーションの説明会で、
- インセンティブ
- 件数
- 稼働
- ケアマネへの挨拶
- 広域待機
という話を聞きながら、
「あれ…?私が思ってた訪問看護と、なんか違う…?」
と混乱していたんだと思う。
違和感はあった。それでも面接まで進んだ理由
正直、説明会の時点で違和感はかなりあった。
それでも面接まで進んだのは、
「実際に現場を見たら印象が変わるかもしれない」
と思ったのもあるし、紹介してくれた転職エージェントの方がかなり熱心だったのも大きい。
転職活動って、自分一人だけで進めているようで、実際はエージェントとの関係性もある。
「とりあえず話だけでも」
「一回面接だけでも」
と言われると、完全に断り切れない空気って、正直あると思う。
それに私は、
「企業型訪問看護って、今はこういう感じが普通なのかな?」
とも思っていた。
自分の感覚の方が古いのかもしれない。
実際に働いてみたら慣れるのかもしれない。
そう考えて、面接まで進んだ。
「高収入も夢じゃない」の中身
次に出てきたのが、インセンティブ制度の話。
「訪問件数○件からインセンティブが発生します」
「賞与に加算されるので、高額になるのも夢ではありません」
と言われた。
しかし私は、“インセンティブ”という単語にまず脳が止まった。
えっ、訪問看護ってそういう世界なの…?
さらに気になったのが、
「じゃあその訪問件数って、どうやって増えるんですか?」
という部分。
私は普通に質問した。
「訪問件数って、自分で獲得するんですか?」
すると、
「自分で営業して契約を取るわけではないです」
とのこと。
ただ、訪問が少ない日は地域包括やケアマネに挨拶へ行ったり、
「この人がいるステーションにお願いしたい」
と思ってもらえるように関係作りをしていく、と。
……営業では?
いや、もちろん正式な営業職ではないのは分かる。
でも、“自分の担当件数を増やすための動き”は必要ってことでは…?
結局この話、私は説明会中に3回くらい質問したのだけど、最後まで「どういう仕組みで件数が決まるのか」が完全には理解できなかった。
病院系列しか知らなかった私には、
「訪問看護って、“看護”だけしてれば良いわけじゃないんだ…」
というカルチャーショックが大きかった。
月1〜2回の待機当番、その実態
説明会では、
「ナースの負担を減らすために、待機電話当番は月1〜2回です」
とも説明された。
それを聞いた時は、
「へえ、少ないな」
と思った。
しかし続きがあった。
実際は、市内にあるグループ全体の訪問看護ステーションで電話当番を回しており、待機に当たった場合は“市内全ステーション”の利用者対応をするらしい。
情報は共有端末で確認可能。
申し送り事項も見られる。
分からなければ、その利用者の所属ステーション担当者へ直接連絡する、と。
……待って。
知らない患者さんの電話を夜間対応するの…?
しかも最終的に担当へ聞くなら、担当者も結局落ち着かなくない…?
と思ってしまった。
これは向き不向きがかなり分かれるシステムだと思う。
「待機回数を減らす代わりに、一回の範囲を広くする」
という考え方なのだろうけど、私にはかなりハードルが高く感じた。
「夜勤バイトしてる人もいます」
最後、転職エージェントの人がさらっと、
「夜勤のアルバイトをしてる方もいますよ」
と言った。
……あれ?
“高収入も夢じゃない”設定では…?
もちろん、お金を増やしたくて副業する人もいるだろうし、夜勤が好きな人もいると思う。
でも、
- 件数次第で収入変動
- インセンティブ制
- 待機あり
- 営業的要素あり
という話を聞いた後だったので、
「思ったより安定して高収入ってわけでもないのかな…」
と、現実が少し見えた気がした。
そして私は不採用だった
説明会を聞きながら、私はずっと混乱していた。
「訪問看護」と聞いて思い浮かべていたものと、目の前で語られているものが、あまりにも違ったからだ。
そして後日、私は不採用だった。
理由は、
「訪問看護をやりたい気持ちが、あまり伝わらなかった」
とのこと。
たぶん、先方の言っていることも間違っていない。
でも私は最後まで、
“看護”の話をしているつもりだった。
一方で相手は、
“訪問看護事業”の話をしていた。
同じ「訪問看護」という言葉を使っていても、見ているものが違っていたのかもしれない。
もちろん、企業型ステーションが悪いと言いたいわけではない。
効率化や広域連携という意味では、今の時代に合った形なのだと思う。
ただ、診療所併設の地域密着型しか知らなかった私には、
「同じ訪問看護でも、ここまで文化が違うのか」
という驚きが大きかった。
訪問看護って、一括りにはできない。
今回の説明会は、そのことをものすごく実感した時間だった。