飲水介助のむずかしさ|記録に残らない1時間のケア

施設で働いていると、ときどき「これは誰がやっても同じだろう」と思われている仕事に出会う。 けれど、実際にはそうではないと感じた出来事があった。

「上手だからお願いします」と言われた瞬間

ある利用者さんが、最近あまり食べられず、水分摂取量も落ちていた。 その日は「15時までに300mL飲めなければ点滴」という指示が出ていた。

私は別の業務で風呂介助に入っていたが、戻るなり職員から声をかけられた。

「センさん上手だからお願いします」

その一言に、少しだけ引っかかりを覚えた。 押し付けられたのだろうか。 そんな疑問が一瞬よぎった。

飲水介助は“飲ませるだけ”ではない

飲水介助と聞くと、 「コップを渡して飲んでもらうだけ」 そんなイメージを持たれがちだ。

だが、実際はそう簡単ではない。

本人は喉が渇いていない。 一度にたくさん飲めない。 疲れやすい。 むせるリスクもある。

だから、少しずつ様子を見ながら進める必要がある。 飲み物を変えたり、ゼリーを使ったり、声をかけたり。 こちらにも根気が求められる。

こうした細かな調整は、経験の積み重ねでしか身につかない。 飲水介助の技術 は、見た目以上に複雑だ。

気づけば1時間が過ぎていた

その日は、ブリックゼリー1本と軽とろみ茶200mLを摂取してもらえた。 数字だけ見れば大した量ではない。

けれど、気づけば1時間が経っていた。

記録には数行しか残らない。 しかし、その数行の裏には、1時間分の観察と声かけと調整がある。

「上手だから」の正体を考える

最初は「時間がかかるから代わってほしい」という意味に聞こえた。 けれど、あとから考えると少し違う気もした。

飲まない人に飲んでもらう。 食べない人に食べてもらう。

これは、経験や声かけの積み重ねで身につく技術だ。 その人の癖、ペース、飲みやすい形、疲れのサイン。 そうした“見えない情報”を読み取る力が必要になる。

つまり「上手だから」は、 実際にその技術を見ての評価だったのかもしれない。

目立たないケアほど、実はむずかしい

介護や看護の現場には、記録に残りにくい仕事が多い。

点滴をしたことは記録に残る。 でも、点滴を回避するために1時間かけて飲んでもらったことは、数行で終わる。

誰でもできそうに見える仕事ほど、実は難しい。 そのことを改めて感じた一日だった。