薬がないなら、「おかしい」と思わない? ――申し送りをなくして、個々の情報収集に任せることの限界

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「薬がないんですけど……」

そう言われたら、私はまず、

「あれ? 薬、変わったんじゃないの?」

と思う。

先日、まさにそんなことがあった。

薬が「屯用」から「定期」に変わった

ある入居者さんは、不眠時に頓服の眠剤を使うことが多かった。

ところが、その眠剤が定期内服に変更になった。

ただ、この方の場合、薬を飲んだという認識が本人の中に残らないことがある。就寝時に、今まで不眠時に使っていたのと同じ薬を定期薬として飲んでいても、

「眠れないから眠剤ください」

となってしまう。もちろん、今までの不眠時薬を追加で飲ませるわけにはいかない。重複してしまうからだ。

そこで医師の指示も変更され、必要時にはそれまでの薬ではなく、比較的作用の軽い睡眠導入剤を使うことになっていた。

私は日勤リーダーのときや夜勤のときには、介護職にも、

「この人、今度から就寝時にこの薬を飲んでるからね」

と伝えていた。本人にも、

「これは眠剤ですよ」

と、できるだけ認識してもらえるよう声をかける。そうやって、現場ではその都度補足しながら対応していた。

ところが、私が夜勤明けだった日の夜。事件が起きた。

私にも、もちろん抜けはあった

先に言っておくと、私にも落ち度はある。今回の薬剤変更について、

  • ケース記録には記載した
  • 重要事項の伝達手段である「2号紙」にもチェックを入れた
  • 看護師リーダーノートには、その日の2号紙がすべて貼られている
  • これまで使っていた不眠時頓服には「中止」の紙をつけ、中止薬の入れ物に入れた

ここまではやっていた。でも、

申し送りに入れるのを忘れた。

そして、

本人用ファイルの指示簿を書き換えるのも忘れていた。

指示簿を書き換えなかったのには、私なりの理由もあった。この方は気分によって薬を飲む・飲まないが分かれる人で、「指示簿を書き換えても、また元の頓服に戻るかもしれない」という様子見の気持ちがあった。

申し送りメールに入力しなかったのも、軽視していたからというより、「2号紙に書けば伝わるはず」という感覚があったからだ。実際、2号紙の中には申し送り事項となるケース記録も含まれている。

ただ、2号紙の内容を全部メールに転記すればいいという話でもない。すべてを申し送りに入れてしまえば、今度はメールが膨大な量になり、かえって重要な情報が埋もれてしまう。だから実際には、「これはメールで申し送るべきこと」をその都度選んで入力している。今回、その選別の中で漏れが起きた。

結果的に情報が古いまま残ってしまったのは事実だ。ここは私のミス。だから、「私は何も悪くない」とは思っていない。情報伝達として不十分だった部分は確かにある。

ただ、それでも私は今回の件について、

「いや、それとこれとは別じゃない?」

と思っている。

いつもの薬がないなら、私は確認する

その日の夜、本人がいつものように、

「眠れないから眠剤ください」

となった。ところが、今まで使っていた不眠時の薬がない。本人用ファイルも変更されていない。申し送りにもない。

ここまでは、確かに情報が足りない。

でも、私だったら、

「薬ないんだけど。変更になったんじゃないの?」

と、まず該当フロアの介護職に聞く。

ただ、うちの職場では介護職員が2号紙をすべて把握しているわけではない。2号紙をきちんと見ていない人もいる。見ていても、内容が頭に入っていない人もいる。だから、

「ここに聞いても分からないかもな」

となったら、私は看護師ノートを見る。それでも分からなければ、指示を確認する。必要なら先生に確認する。

少なくとも、

「薬がないから、別の入居者さんの薬袋から同じ薬を出して飲ませよう」

とはならない。

ところが今回は、それが起きた。

その日の夜勤だった別フロアの看護師が、薬がないことを確認した。本人用ファイルも変わっていない。申し送りにもない。その状況から、別の入居者さんの薬袋からその薬を借りて与薬した。そして、その後に介護職員が2号紙を確認して、

「あ、ここに書いてありました」

となったらしい。

……いや。そこ、与薬する前に見てほしかった。

「情報がなかった」のではない

今回、私が一番引っかかっているのはここだ。

確かに、

「申し送りに書いていなかった」
「指示簿を書き換えていなかった」

という私のミスはある。でも、情報が完全になかったわけではない。

2号紙には書いてあった。看護師ノートにも情報が残っていた。変更前の薬には中止の紙がついて、中止薬の入れ物に入っていた。

つまり、情報は存在していた。 ただ、そこまで確認されなかった。

そして、その状態が3日間続いた。3日も経過してから、「薬がない」という場面で初めて問題が表面化した。

私がその間に日勤リーダーだったり、夜勤だったりしたときは、介護職にも声をかけていたし、本人にも説明していた。だから私がいる間は、何となく回っていた。でも、私が夜勤明けだった日の夜に、情報がつながらなかった。

ここで、私は別の問題を感じた。

「申し送りをなくして、各自で情報収集する」の限界

今の職場では、以前のような対面での申し送りではなく、メールでの申し送りになっている。もちろん、メールになったこと自体が悪いとは思わない。

でも、メールを見ていない人もいる。逆に、

「メールを見ればいい」

と思って、メール以外の情報を見ない人もいる。2号紙もある。看護師ノートもある。本人用ファイルもある。ケース記録もある。いろいろなところに情報が存在している。

そこで、

「各自で必要な情報を収集してください」

という形にすると、一見すると合理的に見える。でも、実際にはそう簡単じゃない。人によって、

「まずメールを見る人」
「2号紙を見る人」
「看護師ノートを見る人」
「本人用ファイルを見る人」

が違う。そもそも、どこに情報があるのか分からない人もいる。情報を見ても、重要な変更だと認識できない人もいる。そして今回のように、「薬がない」という明らかな違和感が出ても、確認行動につながらないこともある。

ここが怖い。

夜勤看護師は一人しかいない

そして、施設の夜勤というのは、病院のように看護師が何人もいるわけではない。うちの施設では、夜勤の看護師は一人。

つまり夜中に、

「これ、どう思う?」

と気軽に別の看護師へ相談できる環境ではない。分からなければ、最終的には医師に確認することになる。

先生は365日オンコール。正直、夜中に電話するのは申し訳ない。できることなら、呼びたくない。

だからこそ、約束指示がある。夜間に看護師が一人でも、毎回医師に電話しなくて済むように、

「こういう場合はこう対応する」

という指示を、あらかじめ医師からもらっている。つまり、夜勤看護師が一人で判断しなければならない場面があることを前提に、事前に仕組みが作られている。

だから、分からないときに確認する場所はある。まず、自分で確認できる情報を確認する。2号紙を見る。看護師ノートを見る。指示を確認する。それでも分からなければ、先生に確認する。先生に電話するのが申し訳ないからこそ、電話する前に自分で確認できるところは確認する。

でも、確認しないまま他の入居者さんの薬袋から薬を持ってくることとは、全然話が違うと思う。

情報共有は、「書いた」だけでは終わらない

看護師として仕事をしていると、

「記録に書きました」
「2号紙に書いてあります」
「申し送りしました」

ということはよくある。でも、

書いたことと、相手に伝わったことは別だ。

さらに言えば、

伝わったことと、相手が正しく行動できることも別だ。

今回、私にも情報伝達の抜けはあった。そこは認める。でも、もし「情報がない」「薬がない」と感じたときに、確認するルートが全員に共有されていたら。「薬がない=まず確認」という共通認識があったら。今回のようなことにはならなかったんじゃないかと思う。

もちろん、申し送りを復活させればすべて解決する、という話でもない。対面申し送りだって、聞いていない人はいる。聞いていても忘れる人はいる。メールだって、見ない人はいる。

だから問題は、申し送りという方法そのものだけではない。

「情報が足りないとき、どこを確認するのか」
「薬剤に疑問があるとき、与薬する前にどう確認するのか」

そこまで含めて、仕組みとして作られているかどうかなんだと思う。

特に施設は、病院とは違って、夜勤看護師が一人という体制も珍しくない。介護職と看護師が一緒に働いていても、それぞれがすべての入居者さんの細かい経過を把握しているわけではない。だからこそ、

「分からなかったら、どうする?」

を決めておく必要がある。

特に老健は、人の出入りが比較的多い。応援体制で他フロアに入ることもあれば、入退所の頻度も高い。だからこそ、「本人用の頓服が見当たらなかったら、まず約束指示に戻る」というルールを、あらかじめ決めておくのはどうだろう。「見当たらない=他の人から借りる」ではなく、「見当たらない=約束指示」という選択肢を先に用意しておけば、今回のような判断には至らなかったはずだ。

私がいないと回らない、では困る

今回、私が一番嫌だったのは、「私がちゃんと申し送りしておけばよかった」ということだけではない。むしろ、

「私がいるときは、私が口頭で補足しているから回っていたんじゃないか」

ということだ。私が日勤リーダーなら声をかける。私が夜勤なら本人にも説明する。介護職にも、

「この人、今日はこれ飲んでるからね」

と伝える。でも、それではダメなんだよね。私が休みの日にも、同じように安全に回らなければいけない。私が夜勤明けの日にも、ちゃんと情報がつながらなければいけない。

「あの人がいるから大丈夫」ではなく、「誰が勤務していても大丈夫」でなければならない。

今回の件で、改めてそう思った。

そして、私は自分のミスも含めて考えている。申し送りを忘れた。指示簿の書き換えも忘れた。そこは改善する。

でも、

「薬がない。おかしいな」

と思ったときに、確認できる情報は残っていた。3日間、そこに情報はあった。そして、分からなければ確認するための仕組みもある。それを確認する前に、他の入居者さんの薬袋から薬を持ってくる。私はそこに、ものすごく大きな違和感がある。

だって私なら、

「薬ないんだけど?? 変更になったんじゃないの?」

から始める。それで分からなければ、看護師ノートを見る。2号紙を見る。指示を確認する。それでも分からなければ先生に聞く。分からないまま、薬を飲ませない。

私はそれが、施設で安全に薬を扱うための最低限の確認行動だと思っている。

そして今回の件で、改めて思った。

「各自で情報収集してください」だけでは、やっぱり限界がある。情報を置いておくだけではなく、「分からないときに、どう動くか」まで共有されていて初めて、安全な情報共有になるんじゃないだろうか。