老健の朝は早い。
朝食までに入居者さん全員をホールへお連れしなければならないため、5時頃から離床が始まります。
その朝、車椅子でホールへ来られた一人の入居者さんを見て、「あれ?」と思いました。
いつもなら私が「おはようございます」と声を掛けると、「おはよう」と返してくれる方です。
でも、この日はぼーっとしていて反応がありません。
最初に思ったのは、「補聴器が入っていないのかな?」ということ。
介護職さんに確認すると、補聴器はちゃんと装着されています。
近づいてみると補聴器はハウリングしていて、聞こえていないわけではなさそうです。
耳元で大きめの声を掛け、肩を軽く叩くと、
「うるさい。」
と返事はありました。
でも、反応はやっぱり鈍い。
さらによく見ると、なんとなく口元の締まりもいつもより緩いように見えました。
「いつもと違う」が一番気になる
この時、頭をよぎったのは脳梗塞などの急性疾患でした。
もちろん、その時点では何も決めつけられません。
両上肢に明らかな脱力はありません。
お茶を手渡すと、自分で飲むこともできます。
バイタルサインも大きな異常はありませんでした。
だからこそ判断に迷います。
「様子を見てもいいのかな。」
「でも、本当に様子見でいいのかな。」
そんなことを考えながら観察を続けました。
老健は一人だけを見ているわけにはいかない
私が勤務しているフロアには約50名の入居者さんがいます。
一人に付きっきりになるわけにはいきません。
でも、「あとで見に行こう」と思っている間に急変してしまったら取り返しがつきません。
そこで、その方は居室ではなくホールで経過を観察することにしました。
通常業務を進めながら、何度も様子を見に行きます。
それでも、しばらくはぼーっとしたままでした。
医師へ相談
8時近くになっても改善がはっきりしなかったため、医師へ相談しました。
指示は、
「採血だけして、食べられそうなら朝食も食べていいですよ。」
とのこと。
採血の準備をして、
「血を採りますよー!」
と耳元で声を掛けると、
「はーい!」
……え?
さっきまで反応が悪かったのに、このタイミングで返事!?
半信半疑で採血を済ませ、朝食を配膳しました。
すると、普通に完食。
「なんだよもう🤣」
思わずそんな気持ちになりました。
「何もなくて良かった」が一番うれしい
結果的には、脳梗塞などを疑うような経過にはならず、大きな異常なく過ごされました。
でも、この出来事で改めて感じたのは、高齢者では検査の数値よりも「いつもと違う」が大切なサインになることがあるということです。
バイタルサインが正常でも安心しきれない。
反対に、急性疾患を疑っても結果的に何もないこともある。
だからこそ、普段の様子を知っていること、小さな違和感を見逃さないこと、そして判断に迷ったら医師へ相談することが大切だと改めて感じました。
看護師としては、「何もなくて良かった」が一番安心する結果。
その「何もなかった」を確認するために、今日も現場では観察と判断を繰り返しています。